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一ヶ月以上空きましたがお久しぶりです。
村荒し編最終話です。
無駄に長いのでご注意を。また管理人の完全な妄想なのでさらなるご注意を。
暑いです。夏が苦手な私には地獄な日々が続きます。

第四話絶望は心の死
貴方だけは知ってください。
本当の絶望を。
兄の妹に対する思いを。

刑一とレナが戦い始めたころ。
北条沙都子は暗い森の中木を背にして休んでいた。
時刻からして本来彼女の年くらいの子がいるには場違いだった。
「もう来たのでございますか」
得物を手にして現れた5人ほどの男達に対して嘲笑うように言った。
「ちょこまかと逃げやがって」
「こちら清掃委員会。土系統BB級北条沙都子を追い詰めました」
上のものに連絡しているであろう声を聞き沙都子はよく分からないといった表情を作った。
「何を言っているんでしょうか。追い詰められたのは貴方達じゃなくて」
少女の声に二人反応した。
ここまで逃げられる間にいろいろなトラップにかけられた。
しかしそれは一般人に対してのものに過ぎない。
異能者が仲間内にいるものに対しては効果が薄かった。
仲間内にいるだけならば。
異変に気付くのはすぐだった。
体が動かないのだ。
「少し糸を張ったらこんなに簡単なんてつまらないですわ」
少女の背後におぞましいものが見えた。
男達はそれを見て恐怖した。
沙都子はそれを見て微笑んだ。年相応の無邪気な笑顔だった。
「無駄ですわ。土蜘蛛の糸ですから人の力では解けませんわ」
自分達を縛り付けているものの正体を知り異能者は愕然とした。
自分の能力を使いこの場を脱しようとした。
だが出来なかった。
印を書いている部分は糸で縛り付けられ使えず、両手両足は微動だにしなかった。
沙都子は自分が通った道に非常に緩い糸を何千本も仕掛けていた。
この糸は彼女の意識しない内はただの緩い糸だが、思念を送れば鋼よりも硬い糸となる。
見かけから少女だと侮り単純に追い続けていた男達は知らず知らずのうちに土蜘蛛の罠にかかっていたのだ。
「あとはご自由にしていいですわよ」
沙都子は優しく後ろにいた2mはある巨大な蜘蛛に言った。
成人男性の胴体ほどもある太い8本の腕と人を丸呑みできそうな大きな口。
動きこそ遅かったがそれが余計に恐怖を膨らまして言った。
「それにしても相変わらずむごいですね。ねーねー」
「あら沙都子無事でしたか? いや沙都子があの程度のやつらに負けるはずがありませんか」 
スタンガンを片手に持った詩音は笑顔だった。
背後で行われている惨劇など知らないような。
「同士討ちですか? 皆さん」
こちらも五人ほどの男達がいた。
しかし既に4人は死んでいた。
体中に残る生々しい傷跡と彼らが手に持つ武器からそれが同士討ちだということは分かった。
一人生き残った男は顔を恐怖でゆがませ怯えていた。
当然だ。自分が手に持っているナイフで自分の首を切ろうとしているのだから。
「やめてくれ。たすけ」
一気に男は自分の首を突き刺した。
「本当にむごいですね。詩音さん」
「仕方ないじゃないですか沙都子、所詮人間なんて電気の奴隷にすぎないんですよ」
再び叫び声が聞こえた。
さっきのやつらが土蜘蛛に食い殺されたのだろう。
「十分沙都子もむごいと思いますよ」
「そうですか。それにしてもこの人達一体何処の人でしょう」
「さあ。少なくとも園崎機密部隊でも五月雨雛OBでもないようですし」
先ほどあげた部類の人にしては若すぎる。
「おそらく五月雨学院現役生徒会の部隊だと思いますよ」
「正解ですよ。彼らは清掃委員。私の道具です」

 

 

 

 

 


刑一とレナの戦いの30分後。
人の丈ほどある巨大なスプーンを振り回しながら彼らの担任知恵は刑一と戦っていた。
刑一は鎖を駆使して戦っていたが先ほどのように一方的な展開とは行かなかった。
契約獣である鯱は既に出現させていた。だが攻撃できなかった。
知恵のスプーンに炎が宿り、それを知恵は投げつけた。
水の壁で防御できれば楽なのだが、火の収束で作られた焼け石が含まれていた。
不動の特性をもつ土の属性を持つ技であり単純に防御できるようなものではなかった。
水壁で火を払いそれでも突っ込んでくる石については鎖で払った。
「その鎖は金の練成で強化しているようね」
「分かりますか。でもそれは先生の巨大スプーンも同じはずじゃないですか。よく出来ますね」
知恵の生来属性は火だ水である自分は金が発生属性であるため金の次に練成が使いやすい属性だが、金が有効属性である火では難しいはずだ。刑一にとって火属性の技を使うようなものである。
「あらあの頃からの知り合いだから知っていると思ったんだけど。私の生来属性は火が5割で金が3割あと土が2割よ」
それを聞いた刑一は納得したという顔になった。
「なるほど流石あの学校で生徒会長を務めるだけはあるんですね。でも知ってのとおり多種生来属性能力者はメインの属性が当然弱いですよ」
「それは使い方ですよ前原さん」
そういうと知恵はチョークを投げつけた。
(土の不動で影響を受け付けない、いや金の練成で強化しているだけか? 読めないな)
刑一は水の防壁を張って様子を見ることにした。
防壁は貫かれ刑一は咄嗟に体を動かした。だが左手を貫かれていた。
(出血はかなり多いな。ただのチョークに火を纏わして周囲の酸素を収束させて加速させる。その後衝突の前に土に変化して水の効果を打ち消しさらに金に換えて貫通能力を上げたか)
刑一は一撃で全て見抜いていた。
すぐに水の操作によって出血を止めた。
多種生来属性能力者のみが可能であり連続属性変化による威力の増加。
(水が殆どである俺が他の属性を使えば威力は水の時よりも格段に落ちる。でも知恵先生の場合変化後も生来属性だから決して威力は落ちず他の属性の特性も併せ持つ攻撃になるということか)
「竜宮さんあいてに無傷で勝つとはなかなかだと思いますが、やはりまだ園程度のようですね。あら?」
刑一の体から霧が出てきた。勢いは強く辺りはすぐに霧に包まれてしまった。
知恵は表情を険しくした。これは危険だと本能が言っていた。
普段の少しだけとげのある青年の不利に騙されてしまい忘れていた。
彼はあの古くから伝わる伝説の呪いを受けたものだということを。
刑一は右目の眼帯を外した。真っ赤に染まった鬼の瞳が現れた。
「仕方ないな。貴方相手には五大鬼の一人として相手するしかないな」
レナ相手には見せなかった刑一の本気が遂に表れた。

 

 

 

 

 

「隔離の岩戸」
巨大な岩で隠された洞穴に一人の青年がいた。
傍らには小学生くらいの少女がいた。
だが少女からは生気が感じられずまるで人形のようだった。
「雫見てみろ。あの古手が本気になったようだぜ」
彼の目の前にある鏡には雛見沢の様子が映っていた。
ここは世の道理から外れた世界。
巻き戻しの影響を受け付けない亜空間。
時間すらこの空間では無意味だった。
「相手はかつての生徒会長知恵留美子か懐かしい。お前にとってはそうではないのか? そうだなあの時の生徒会や委員会に入っていた同級生は俺だけだったからな。一つ下に刑一がいただけだからな」
先ほどから彼は人形のような少女に話しかけていた。
「さて生徒会長の力量じゃ刑一は倒せないでしょうが手傷は負わせてくださいよ」
優しく少女の頭をなでながら言っていた。
「刑一お前の望みは何だ。妹を護ることなのか? 雫のようにさせないために」
人形のような少女雫は未だに無反応だった。
「今回の世界こそうまくいけよ。今古手梨花は絶望に染まりきっている。その魂を砕けば計画は完遂する」
彼は絶望に染まった古手梨花がほしかった。
彼女もいればこの子の寂しさも減るだろう。
そのまま男は少女を抱きしめ膝の上に乗せた。
その瞳には愛が満ち溢れていた。
「もう少し早く悟史を向かわしたほうがよかったかな」

 

 

 

 


激戦の後地面は大きくえぐられていた。
そこには左腕を押さえている刑一の姿があった。
「まさか最後にこんな切り札を取っていたなんてな」
刑一は左腕の一部が炭化していた。
対する知恵は右腕を肩からなくし心臓に氷の槍が刺さっていた。
既に絶命していた。
体中傷だらけで彼女の獅子奮迅ぶりが伺えた。
なんとしてでも止めたかったのであろう。
彼を一人の教え子として。
幼い頃から面倒を見てきたものとして。
だが結果はこれだった。
あの霧が発生してからは一方的な展開だった。
鬼の血を色濃く受け継ぐものの殺気と衝動に飲み込まれながらも彼女は奮迅した。
打つ技、打つ技どれもが発動中に乱され変化されて返された。
鋭く変化した爪の一撃も重く鋭かった。
右腕を捨てる覚悟で放った切り札は彼の左腕に傷を負わしただけだった。
片腕を失ってからは書くことすら憚れる。
歴戦の兵の最後としてはあまりにも酷かった。
刑一はふらふらと神社に遣ってきた。
神社には既に日が変わっているというのに大勢の人がいたが全員殺しておいた。
「こんばんは。梨花」
周りの雑音は全て消しておいた。
この会話を遮る事は誰にも許されない。
観客は一人も要らなかった。
この劇を見ていいのはただ自分ひとりだから。
喜劇でもあり悲劇でもある劇を。
否、傍観者が一人だけいたようだ。
だが彼女はもう何もするはずがない。この世界の古手梨花は既に絶望に染まった。
既に生きることを放棄している。だから殺してあげよう。
貴方の兄から貴方へのこの世界での最後のプレゼントとして。
「こんばんは。刑一」
完全に放棄したわけではなかったようだ。
返事が返ってきたのは何十回ぶりだろう。
最近……この表現は少しおかしい。自分の記憶の欠落もいくつかある可能性が高いが、とにかく最近は返事などしなかった。
自分が死ぬという運命をただ受け入れていた。
もしかしたらという淡い希望を持ったがすぐに打ち消した。
どの道ここまで落ちぶれたら手遅れだ。
「俺がどうしてここに来たかは分かるだろう」
鎖に繋いでいた刀を一つだけ外し手に取った。
力の限り強く。強く握った。
むき出しの刃なので彼の手からも血が流れていた。
だが彼はそれを気にすることはなかった。
この体とはもうじき分かれるというのもあるが、それよりも自分も傷つかなければという意識があった。
免罪符とでも言うつもりか?
冷静で残忍な自分はそう揶揄したが無視した。
刑一は心臓向けて刀を振り下ろそうとした。
「夢を見たの」
一寸もない距離で止めた。
梨花は刃を見ていなかった。
「どんな夢だ」
「みんなで力を合わせて鷹野を倒して幸せになる夢」
そういう世界もあった。
だけど事実は違う。鷹野すらあの男の掌で踊っていたに過ぎない。
「ねぇどうしたら幸せになれると思う」
「生きたいと願え」
そのまま刑一は心臓に突き刺した。
本当はもっといろいろ言いたかった。でもそれは決して許されない。
「     」
梨花は笑顔だった。
「結局は親子か。母親と同じだ」
憎まれごとを言って欲しかった。
断末魔でもよかった。
でも彼女達がしたのはどれでもなかった。
「なにが……くそっ!!」
この世界で彼は珍しく感情的になった。いや、このごろの世界では
いつも梨花以上に冷めた目で世界を見ていたのに。
だがその反面すがすがしかった。
(あんなことを言えたってことはそれほどいい夢だったのか?……そうか羽入お前が介入したのか)
彼女の介入はあまり好ましくないがかまわなかった。
彼女の行動にけちをつける気は一切ない。
もし彼女がいなければ既に自分の精神は絶望で破壊されている。
「なんだもう終わっちゃたんだ」
遅れてきた金色の悪魔が現れた。
「遅かったな北条悟史。もう劇の幕は下りた」
北条悟史……表では一年前失踪した男。
正確には一年前自分が鹵獲したL5克服者。
両手にはトンファーが見えた。
しかし彼の生来属性から当然武器はこれだけでないだろう。
「駄目だよ。終幕が残っているじゃないか」
立ち上がると軽く疲労感を感じた。
無理もない。同年代では高い攻撃力を持つレナとかつて生徒会長まで上り詰めた知恵という二人と戦ったのだ。
疲労感を感じてないほうがおかしい。
目の前にいるのは容量こそ自分より下だが屋内戦闘つまり狭い空間のインファイトならば現在トップ10にはいる男だった。
突如突進しトンファーの一撃目を鎖で絡めとり防御したが鎖ごと破壊された。
自分のも金で強化しているが生来属性が金の人間にはかなわないだろう。
距離を取ろうとすると背中に下げていたハルバートで突いてきた。
ハルバート。長柄武器の完成形とも言われる重量武器。
多様な形態があるが悟史がもっているのは貫くための槍、切り殺すための大きな斧、引っ掛け駆るための大鎌が突いていた。
あらゆる攻撃が可能な反面非常に使いにくい武器である。
少なくともリーチからして屋内に向いているとは思えない。
(こいつのことだ。どうせ仕掛けがどっさりついているんだろうよ)
かろうじてよけたが受けたらかなりやばかった。一撃であの世行きだ。
これ以上こいつを近づかせるわけにはいかない。
死んでいるんだからもういいと考えるかもしれないが。
この子を護るのは俺しかいないんだ。
そう考えているうちに重い一撃を受けた。
ただの回し蹴りに見えたがよく見れば足の甲に鉄板を仕込んでいた。
それを強化した一撃。
刑一は水でコーティングし鋭くしたトランプを投げたが全てよけられた。
「そういうのは手の動きを注視していれば大体読めるんだよね」
刑一は投擲武器と鎖による広範囲の攻撃で鎖の先などは見えないほどのスピードを持つため避けにくいと考えられる。
だが実際には全ては手の動きによって動かされており手の動きをちゃんと見ていればよけることは可能だ。
しかし刑一はその手の動きの中に多数のフェイクを入れていた。
その技術こそ彼がこの世界でも魔術師と呼ばれた所以である。決して水の力で魔術師と呼ばれたわけでなかった。
先ほどのトランプの動きですら多数のフェイクがかけられていた。それを彼は見抜いていた。
屋内にいたのが凶と出た。トンファーの攻撃を一方的に受けていた。
トランプを除けば自分が持つ武器は鎖で繋げたものが多く、中距離から遠距離向きである。
屋外での戦闘ならばリーチもありかなり有利に戦える。
だが遮蔽物の多い屋内では鎖を伸ばす空間がないため全力を出し切れない。
ならばと、刑一は水を鎖に纏わせ刀のようにした。
光無しの世界で羽入を追い詰めた血刃の太刀だった。もっとも彼らにその世界の記憶があるかは不明だが。
「水の性質を変化することで高速流水によってあらゆるものを切断する。近いもので言えばチェーンソーだけどそれの比にならない振動数だね」
悟史は冷静だった。北条悟史という人間は元来冷静過ぎる子だった。
戦闘に興じているように見えて実際は冷静。脳内と表の表情が違いすぎるのだ。
腰に下げていた一本のナイフで刑一の一太刀は防がれていた。
「ソードブレイカーか。難易度の高い武器をよく扱えるな」
使いにくい防御の武器ソードブレイカー。名のとおり刀を殺すために作られた武器である。
多種多様な形があるが悟史が持っているのは片面は普通の刃で裏面は凹凸があり凹んだ部分で刀を受け止めていた。
通常の刀が相手ならこのまま捻ることで刃をへし折ることが出来る。
刀を相手にする時には非常に強いが、何分使い辛いのが難点である。
「水の変化で振動させている程度を受け止めるようにするくらい金の練成ならば簡単だよ」
実際には練成で強化した上に土の不動をかけているのだが。
刀を捨て刑一は距離を取ろうとした。
だが悟史はトンファーを振り、同時に仕込まれていた鋭い針の散弾をうった。
水の障壁で払いのけるものの再びハルバートで攻撃してきた。
(読めない。攻撃がまったく)
重く鋭い連打。流石の刑一でも防ぎきれなかった。
(仕方ないここは距離を取る。それしか攻略法はない)
再び霧を展開した。
「目くらましのつもりかい。でも遅いよ」
トンファーを回転させて霧を払っていた。
(どんな回転速度をしてんだこの男は)
隠し持っていた水が入った竹筒を目の前で爆発させた。
無論自分もただでは済まないが距離は取れた。
梨花との距離をキープしつつ奴を遠くに向かわした。
「一撃で終わらす。俺の切り札で」
チャンスはこの一回。
残っている全ての霊力を攻撃にまわした。
枷としてかつて竜宮礼奈を救えなかった罪としてつけた鎖を外した。
自分を包み込む激流と共に突進する捨て身技。
枷がなくなりスピードは先ほどとは比べ物にならない。
よくて相打ち、悪くて敗北。
でもこれしか方法はなかった。
「洪龍氾濫」
目の前にいるやつが取れる手段は決まっている。だからこれで決着をつける。
この世界に終止符を打つ。
槍を投げようが弓矢を射ようが激流で無効化した。
「龍の逆鱗は怒涛の荒波となり万物を薙ぎ払う」

 

 

 

 


また私は間に合わないのだろうか。
何度も何度もそれこそ何百回と繰り返してきた。
だが私がついたときには既に二つのことが終わっている。
一つは知恵先生が死んでいる。
もう一つは梨花ちゃんが死んでいる。
竜宮レナはふらつきながら神社裏に来ていた。
来る途中に暴徒と化した富竹に出会った。
角材で襲ってきたため両手の鉈で腹を切り裂いておいた。
刑一にこの状態で会えばおそらく死ぬだろう。
富竹は僅かながら想定外だったが、それ以外はいつもどおりだった。 
(確か後はこのまま刑一君が沙都子ちゃんも詩ぃちゃんも魅ぃちゃんも殺して終わるんだったかな、かな)
(   )
何かが聞こえた。
再び立ち上がろうとしたがもう限界に近づいていた。
(……いて)
やはり何かが聞こえた。
(気付いてください)
後ろから声が聞こえた。
咄嗟に振り返ったがそこには蔵があるだけだった。
(空耳? でもこれはなんだろう)
今まで気付かなかったが神社に隠れるようにその蔵はあった。
だがみすぼらしい外見に丈夫で重たく冷たい扉がやけに違和感があった。
そしてご丁寧に鍵が開いていた。
「なんだろうここは」
レナが蔵に入り驚愕した。
古くなった血の跡と壁に繋がれている手錠と大きな重しがくくりつけられている足枷を見て。
誰かがここで閉じ込められていたようだ。
「園崎ならまだしも古手が……そうか刑一君が幼少時代すごした場所」
彼が過去の話をすることは少なかった。
それは五月雨学院にいた頃から今に至るまでずっと
だけど時々話してくれたことがある。
親に捨てられるその日に見た星空が初めてだった。
ふと場違いなノートが乱雑しているのが見えた。
レナはそれを読んでみた。
そして彼女は理解した。
これほど残酷な真実がこの世にあるのかと。

 

 

 

 

両足に激痛を感じたのはすぐだった。
「もしかして僕が有利な屋内戦を君のせいでやめたと思ったのかい?」
刑一は足元を見て理解した。
地面に噛み付かれていたのだ。両足とも。
常識的にはあり得ない。おそらく梨花の家に入る前に仕掛けていたのだろう。
「完全に嵌められたな」
ハルバートを悟史は構えた。
「あたり一面の草木から大地まで全て武器に変えておいた。もう逃げ場も打つ手もないはずだよ」
鍛え抜かれた鋼の如く全てを打ち砕き、万物を得物とし冷たき金の鬼。
槍の部分が延びた。殺傷力が高いことは見て分かった。
刑一は動こうとしていたが動けなかった。霊力の酷使で意識が朦朧としていた。
さらに刑一は鬼としての力を知恵との戦いで使った。
古手の伝説に描かれた鬼である刑一だが人間としての部分があるため鬼として戦うのはかなり辛かった。
「悟史頼みがある」
「なんだい遺言かい?」
刑一は悟史をみた。
「梨花に手を出さないでくれ。俺の命ならくれてやる」
「わからないのかい。また巻き戻しをしたいのか君は?」
右目の赤い色が鈍くなっていた。
「この世界はあの子に絶望しか与えなかった。礼奈も沙都子も詩音も魅音もだれもが」
「だからレナに手を出したんだろ。五月雨にいた頃はあれだけ可愛がっていたのに」
悟史はわざと「可愛がっていた」を強調した。
「ああ俺はもう血で汚れすぎた。だけどあの子は違う。巻き戻しをすればまた希望は戻る」
「確かに君はもう落ちるところまで落ちたよね刑一。父親に売られたレナを助けるために暴力団に殴りこんだ伝説を持つ男はどこに行ってしまったんだろうね? 僕はあってみたかったよ」
刑一は思い出していた幸せだった頃を。
だけどあの日全てが崩壊した。
「崩壊したからな。世界が。だから俺は父と母を殺した」
仲間という枷があったからこそ凶行には移ることがなかった。
でも枷がなくなってしまい自分の居場所すら分からなくなった。
だから憎くなった。俺を否定したあの二人が。俺から居場所を奪った古手梨花が。
「だからこそ変だ。だったらなぜ君は梨花ちゃんを護ろうとするんだ。仲間に嫌われてまで」
「もし古手梨花の存在で俺がこうなったって知ったら梨花の立場が悪くなる」
悟史は不思議に思っていた。居場所を奪われたゆえに彼女を憎んだはずの古手刑一がなぜあっさりと居場所をすてる。
生まれてはならない古手の長男として生を受けた彼が。
実際悟史は五月雨にいた頃の刑一をしらない。雛見沢に遣ってきた前原圭一としてなら知っているだけだ。
だから彼のことは生き残った仲間達に聞いたに過ぎない。
その中で悟史が注目したのが「妹が生まれた日に捨てられた」ということだった。
最初は意味が分からなかったがなるほどと理解した。
もし彼が存在してしまえば梨花ちゃんはオヤシロ様の生まれ変わりではない。
つまりは偶像崇拝の象徴を作るために彼は犠牲になったらしい。
(以前から気になっていた。彼はどうして古手梨花を「壊心の塊」にしない。それこそが彼の望みのはずだ)
焦げ臭いにおいに顔をしかめながら。そう焦げ臭いのだ。
悟史は嫌な予感がしつつ後ろを見た。燃えているのは先ほどまで自分達がいたところ。
(誰だ火をつけたのは? まあいいか)
ハルバートを再び構え圭一を左の心臓めがけて貫いた。

 

 

 

 

「生徒会長ですか? 私です。清掃委員会長雅です」
通信用の術がほしいと彼女は思っていた。
「ええ、土系統BB級北条沙都子および木+3系統型A級園崎詩音殺害完了しました」
自慢の竹箒は二人の血で真っ赤に染まっていた。
引き連れた10人の部下が全滅という結末で彼女は不機嫌だった。
S級能力者や特定危険人物ならばまだ分かる。
だが相手はAとBの二人だ。連れてきた能力者はB級が二人だったためすぐ終わると思っていた。
その結果がこれだった。
また彼女は公衆電話というものが嫌いだった。
後ろから気配を感じた。
「会長。どうやら後ろが待っているので切りますね」
雅はそういって電話を切り振り向いた。
「ごめんなさいね。……あなたは」
驚き箒を手にする前に両目を手でつかまれた。
遅れて箒をとり振るった。
「竹箒×鼬」
風を「支配」することで起こす旋風。
あの二人もこれで始末した。森には打撲で死んだ二人の亡骸が見つかるだろう。
「まさか次は貴方がじきじきに出て来るなんて驚きよ」
突然だった。彼女の視界が歪んだのだ。
目の前のものが酷く捻じ曲がって見えていた。
(なにこれ、鬼の力?! でもこの子は鬼の力を持っていないはず)
既に腰から下げていた太刀を抜刀した彼女を止める手立てはなかった。
太刀は既に赤く染まっておりかなりの人を殺したのが伺える。
(そういえばこの辺り寝ている人の気配もないと思ったらみんな死んでいたんだね)
箒で地面を払い旋風を発生した。これで近づきにくくなったはずだ。
「もう遅いよ」
真横から声が聞こえ反射的に箒を振るった。
だが箒は虚空を切っていた。
「もう私の姿見えてないでしょ」
肩から一刀両断された。
雅をあっさりと葬った少女は振り返った。
手に物を持った村人だった。だが目は血走り殺気立っていた。
「まさか鷹野さんの理論が正しいなんてね。女王が消えた後狂信者達は理性をなくし狂鬼と化す」
覚悟を決めたようだ。乱戦となるため不向きな太刀は納め、打刀を抜いた。
纏っている黒い着物は喪服のつもりだろう。大事な護るべき民を護れなかった償いとして。
「園崎家党首園崎魅音。いざ参る」

 

 

 

 

 

 

 

「刑一君大丈夫かな、かな?」
控えめな彼女の声が聞こえた。いつも通りの声だった。
「これを大丈夫というかどうかは俺は知らないがな」
心臓をハルバートで貫かれ一度死にかけた。
だが隠し持っていた竹筒に入れてあった神水を使うことでかろうじて死は免れた。
しかし上半身の左半分は持っていかれた。
(既に炭化していたからどうでもよかったんだが)
対するレナも持っていた鉈は両方とも得の部分からへし折られ、その際に片腕をなくしていた。
それに自分に背を向けていた。
「おい、レナ」
「刑一君お願いだから今の私の顔見ないで。元の顔じゃないから。最後に見る私の顔がこんなのなんて嫌だから」
修羅のような男。悟史に対するイメージはそれだった。
女の顔にまで手を出したのだ。
逆を言えば彼はそこまで追い詰められていたのだろう。
「鯱×水鉄砲」
刑一は動かない両足を噛み付いているものを鯱に破壊させた。
両足ともかなりの傷を負ったがそのまま向かった。燃えている梨花の家に。
「焼死体になりたいの?」
「俺、思うんだ。次の世界の梨花は大丈夫だって」
レナは驚いて反応が遅れた。彼が梨花のことを褒めたのは初めてだ。
「だからこの世界は最後まで俺がいてやる。最後ぐらい兄貴面させろ」
最後のほうは聞こえなかった。
もしあれを読む前の彼女ならば「嘘だ!!」と叫んでいただろう。
だが彼の真意を知った以上、自分が介入してはならない。
互いに歪みそしてずれまくった兄妹がようやく真実の姿に成れるのだから。
ここまで来るのに何年かかっただろうか。
綿流しの日に記憶が戻る。全ての世界の記憶が。
たまにそれよりも早く戻ることがあるがそのときは失敗ばかりだ。
「あの時は刑一君と魅ぃちゃんを殺しちゃったんだっけ」
炎の周りは早かった。
だが梨花を見つけるのは容易かった。
戻る気はないのだから。
一見すれば寝ているだけだ。
だったら寝ているでいいじゃないか。刑一の思考はそうなった。
少し熱い家で兄妹二人で眠っている。
「ああ、もうこんな時間だ。梨花いくら熱いからって布団しかきゃ風引くぜ」
その時は刑兄に抱きしめてもらうから良いのです。
そんな幻聴が聞こえた自分は相当末期だと理解した。
「おやすみ梨花。今度は良い夢をみんなで作ろう。俺を除いて」
抱きしめる。
燃える天井が崩れ落ちる前に刑一が最後にしたことだった。

 

 

 

 


「最後に残ったのは僕達二人だけのようだね」
悟史は事実を述べた。
「そうだね。村の暴徒化した人たちはみんな私が始末した。それ以外の人たちは暴徒化した人に殺された」
魅音は結果を述べた。
「運命を変える存在と考えられた刑一は僕が殺した。これも十分運命が変わっているんだけどね」
「最後は私? 御三家歴代最強の名の下に悟史。あんたを殺すよ」
下げ緒から太刀を抜いた。
「それは鬼隠桜文字(おにがくしさくらもんじ)だったけ。五月雨学院雛見沢OB童子一時が鍛えた裏業物工雛見沢に残っているものだよね」
「よく知っているね。だけど近づきすぎだよ」
魅音は悟史に触れた。
「感覚支配かい? やっぱり園崎の頭首は姑息だね」
触れた手を掴まれた。
「木の特性である支配。だけど知っているだろ。木の支配は金の練成に効かないってことぐらい」
そのままなげられ、ハルバートで一閃された。
斧の部分で叩いたため返り血をかなり浴びた。
「どうやら生き残ったのは僕のようだね」
高揚感を感じた悟史だが。すぐに倒れた。
「なにこれ……まさか魅音、君は」
すぐに眼が見えなくなった。四肢も言うことを効かない。
「猛毒か。体内に仕込んでいたんだね」
魅音は体にかなりの毒を持っていた。普段は支配することで抑えているが死ぬとその毒は体を駆け巡り血液は猛毒の薬へと変化する。彼女の狙いは最初からこれだった。
目論見どおり悟史は毒死した。
魅音がそれを確認することは出来ないけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 


「また全滅ですか。でも数百年ぶりに進展があった」
真っ白な世界で一人少女は語った。
「やはりIFの世界の夢を梨花に見せたのがよかったのです」
自分の策が成功したことを喜んでいるようだ。
既にこの世界には彼女一人でいた。傍らにいた少女の精神は既に壊れこちらにいることは出来なくなっていた。
少女が希望を失ったためか彼女は少女の元にいられなくなっていた。
「この世界で僕はイレギュラー。封印された鬼に過ぎないのです
「それにしては思いっきり活動してくれたな」
少女は両目をこれでもかというくらい開けた。
生まれてこの方初めてと思えるほどの驚きだった。
「馬鹿な。僕の思考世界きるはずがない!!」
「現に出来ている。雛見沢の神羽入よ。既に他の里は五月雨の手に落ちた」
突如現れた青年は羽入に近づいた。
羽入は逃げようとしたが体が動かなかった。
(まさか世界の支配権を奪われた? でも一体どうやって?)
そのまま掌をかざした。
「百鬼封印」
羽入は思考の支配権を奪われたことを感じていた。
「人間の分際で……神の領域に手を出すことがどれだけの禁忌か分かっているのですか?!」
「罪を受ける覚悟ならば既にある。あの子のためならば」

 


少女の誕生が少年の全てを奪った。
少年は少女への憎しみを糧に生き抜いた。
だが少年は無知だった。
愛に気付いていないだけだった。
それが罪なのか罪でないのかは少年にはまだ分からなかった。
気づいた時には既に何もかもがなくなっていた。

あなたたちは分かりましたか?
この世界の真実が?
二人の歪が世界を狂わした。
もうこんな世界私は見たくない。
それが私の望みです。
だから誰か世界を変えて!!!
 

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